今やネットでの買い物は日常的なものになりました。店舗に行かなくてもよく、配達してくれる便利さも魅力的です。
お酒も例外ではなく、ネットで購入する消費者も以前に比べ増えています。
お酒をネットで販売するには通信販売酒類小売業免許が必要になります。この免許があれば、ネットでお酒を紹介して販売するだけではなく、カタログや新聞の折込チラシなどによる販売もできるようになります。
ただ、通信販売をするのであれば、通信販売酒類小売業免許が必要というわけではなく、2つの都道府県以上の広範囲な地域の消費者に通信販売を行う場合に限ります。
そのため、1つの都道府県、例えば、地域の消費者を対象にネットや折込チラシなどで販売するような場合には、通信販売酒類小売業免許を取得する必要はありません。もっとも、この場合には一般酒類小売業免許が必要になります。
また、通信販売酒類小売業免許は販売できるお酒が決められています。どのようなお酒でも販売できるわけではないのです。販売できるお酒は以下のものとなります。
1.カタログなどの発行年月日の属する会計年度(4月1日から翌年3月31日までの期間)の前会計年度の酒類の品目ごとの課税移出数量がすべて3,000キロリットル未満である酒類製造者が製造、販売する酒類
2.地方の特産品など(製造委託者が所在する地方の特産品などに限る)を原料として、特定製造者以外の製造者に製造委託する酒類であり、かつ、その酒類の一会計年度の製造委託者ごとの製造委託数量の合計が3,000キロリットル未満である酒類
つまり、大手メーカーが製造しているお酒は販売することができません。あくまで、3,000キロリットル未満の販売量の製造業者となります。では、どのように3,000キロリットル未満であるのかを証明するのかというと、製造業者から証明書をもらう必要があります。
なお、輸入酒類であれば制限なく、ネット販売をすることができます。
通信販売酒類小売業免許の手続きの流れ
通信販売酒類小売業免許の手続きの流れは次のようになります。一般酒類小売業免許の手続きの流れと同じです。
要件を満たしているかをチェック
通信販売酒類小売業免許の取得要件を満たしているかどうかを確認します。人的要件、場所的要件、経営基礎要件、需要供給要件などをチェックします。また、免許を取得して、いよいよお酒の販売を開始することになれば、 販売場ごとに酒類販売管理者を選任しなければならないので、選任予定の方に酒類販売管理者研修を受けてもらいましょう(酒類販売管理者に選任できる者には一定の要件があります)。
申請書の作成
申請に必要な書類を集め、申請書を作成します。「販売場の敷地の状況」「建物等の配置図」など図面もありますが、「事業の概要」「収支の見込み」「所要資金の額及び調達方法」など事業計画的な内容の申請書の作成が求められています。
申請書の提出
販売する店舗のある所在地を管轄する税務署に提出します。この時点では登録免許税を納める必要はありません。
審査
申請書を受理された日の翌日から最長で2か月かかります。申請書や添付書類の内容確認、申請者や販売場が免許要件を満たしているかどうかが審査されます。ケースによっては、追加資料の提出や現地調査がされることもあります。
免許の付与
免許が付与されると申請した税務署で登録免許税として3万円を納め、酒類販売業免許通知書をもらいます。
販売業務の開始
免許を付与され、晴れて販売開始となりますが、酒税法の義務などを守らなければなりません。例えば、販売記帳義務や毎年の販売数量の報告義務、20歳未満への飲酒防止対策などがあります。また、販売場の移転など、免許取得後に 申請者や販売場など変更事由があった場合には、手続きをする必要があります。
通信販売酒類小売業免許の要件
通信販売酒類小売業免許は誰でも取得できるわけではありません。取得するには一定の要件を満たしている必要があります。ここでは、必要となる4つの要件についてみていきます。
●人的要件
過去に法律違反などをしていないことが要件となります。
1.申請者が酒類の製造免許・販売業免許、アルコール事業法の許可の取消処分を受けた場合には、取消処分を受けた日から3年が経っていること。
※ここで、アルコール事業法とは、経済産業省が管轄であり、アルコール度90度以上の工業用アルコールなどの製造・輸入・販売・使用について定めた法律のことです。
2.申請者が酒類の製造免許・販売免許、アルコール事業法の許可の取消処分を受けたことがある法人で、取消原因があった日以前1年以内にその法人の業務を執行する役員(取締役など)だった者については、その法人が
取消処分を受けたときから3年が経っていること。
3.申請者が申請前2年内に国税や地方税の滞納処分を受けていないこと。
4.申請者が国税や地方税についての法律に違反して、罰金刑、通告処分を受けた場合には、それぞれ、刑の執行が終わり、または執行を受けることがなくなった日またはその通告を履行した日から3年経っていること。
5.申請者が、未成年者飲酒禁止法、風俗営業法、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律、刑法(傷害、現場助勢、暴行、凶器準備集合及び結集、脅迫、背任の罪)、暴力行為等処罰に関する法律により、罰金刑を受けたときは、
その執行が終わり、または執行を受けることが亡くなった日から3年経っていること。
6.申請者が禁固以上の刑を受け、その執行が終わった日または執行を受けることがなくなった日から3年が経過していること。
●場所的要件
正当な理由がないにもかかわらず、取締り上不適当と認められる場所に販売場を設けようとしていないこと。以下のようなケースです。
申請販売場が、製造場、販売場、酒場、料理店等と同一の場所であるケースはダメです。
●経営基礎要件
申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていないこと、または、経営の基礎が薄弱でないこと。以下のようなケースに該当していないことです。9.と10.が一般酒類小売業免許の要件と異なるところです。
1.国税または地方税を滞納している
2.申請前1年前以内に銀行取引停止処分を受けている
3.最終事業年度の確定した決算の貸借対照表の繰越損益が資本等の額(貸借対照表の繰越利益剰余金がマイナスで、繰越損失額が資本金+資本剰余金+利益剰余金-繰越利益剰余金を超えている)を上回っている
4.最終事業年度以前3事業年度のすべての事業年度で資本等の額(資本金+資本剰余金+利益剰余金-繰越利益剰余金)の20%を超える額の欠損がある
5.酒税に関係のある法律に違反して、通告処分を受け、履行していない場合または告発されている
6.販売場の申請場所への設置が、建築基準法、都市計画法、農地法、流通業務市街地の整備に関する法律その他の法令や地方自治体の条例の規定に違反していて、店舗の除却または移転を命じられている
7.申請酒類小売販売場で、酒類の適正な販売管理体制が構築されないことが明らかであると見込まれること
8.以上のケースに該当していないことに加え、経験などから判断し、適正に酒類の小売業を経営するのに十分な知識及び能力があると認められる者、または、これらの知識と能力がある者が組織する法人であること
一般酒類小売業免許のときと同じく、その他の業での経営経験と「酒類販売管理研修」を受講することで、酒類の小売業を経営するのに十分な知識や能力があるかどうかの実質的な審査をしてもらえます。
9.酒類の通信販売をするための所要資金などをもっており、販売方法が特定商取引に関する法律の消費者保護関係規定に準拠し、「未成年の飲食防止に関する表示基準」を満たし、またはこの定めを満たすことが確実であると見込まれること
10.酒類の購入申込者が未成年者でないことを確認できる手段を講ずるものと認められること
●需給調整要件
酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許をあたえることが適当であると認められる場合に該当しないこと。以下のようなケースに該当していないことです。
1.申請者が設立の趣旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人や団体
2.酒場、旅館、料理店など酒類を扱う接客業者でないこと
記帳義務
免許を取得後、酒類販売者は、お酒の仕入れや販売状況を帳簿に記帳しなければならず、また、年に一度、税務署に報告書を提出する義務もあります。
●帳簿への記帳
帳簿の様式に決まりはありませんが、以下の内容を記帳する必要があります。帳簿は、販売場に備え、帳簿を閉鎖した後も5年間は保管しておかなければなりません。
1.仕入れに関する事項
酒類の品目、税率の適用区分別に、仕入数量、仕入価格、仕入年月日、仕入先の住所・氏名(名称)
2.販売に関する事項
酒類の品目、税率の適用区分別に販売数量、販売価格、販売年月日、販売先の住所・氏名(名称)
なお、販売先の住所・氏名(名称)は省略することができます。
また、以下の事項を守れば、販売数量、販売年月日を3か月を超えない期間の合計数量で一括して記帳することができます。
●仕入れた酒類の全部について、上記の仕入れに関する事項が全て記載された伝票を仕入先からもらい、その伝票を5年以上保存しておくこと
●3か月を超えない月の月中(当該月が会計年度の最終月にあたる場合はその月末)に実地棚卸を行っていること
申告義務
免許取得後、以下の事項について販売場などの所轄税務署長に申告を行う必要があります。
●毎年度報告をするもの
報告書 | 報告事項 | 申告期限 |
---|---|---|
酒類の販売数量等報告書 | 毎年度(4月1日から翌年の3月31日)の酒類の品目別販売数量の合計数量及び年度末(3月31日)の在庫数量 | 翌年度の4月30日まで |
●以下の事由があったときに申告などするもの
申告書等 | 事由 | 申告期限 |
---|---|---|
異動申告書 | 住所、氏名、名称、販売場の所在地・名称に異動があった場合 | 直ちに(事由が生じたあと、すぐに) |
酒類・酒母・もろみ製造・販売業 休止・開始(異動)報告書 | 酒類販売業を休止または再開する場合 | 遅滞なく(事由が生じたあと、できる限り早く) |
酒類蔵置所 設置・廃止報告書 | 免許を受けた販売場と異なる場所に酒類の貯蔵のための倉庫などを設ける場合やその倉庫などを廃止する場合 | あらかじめ |
酒類の販売先等報告書 | 税務署長から酒場・料理店などの酒類の販売先の住所、氏名、名称の報告を求められた場合 | 別途定める日まで |
※住所、氏名、名称の異動は、株式会社と持分会社(合名、合資、合同会社)間の組織変更、持分会社間の会社種類の変更を含みます。
※販売場の所在地の異動は、販売場を別の場所に移動することではなく、区画整理などによる地名、地番の呼称の変更のことです。販売場を別の場所に移動する際には、所轄税務署長の許可が必要になります。つまり、上記の異動申告ではないので
注意してください。
酒類業組合法上の義務
酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒類業組合法)により、酒類販売管理者に関する義務と表示基準を遵守する義務があります。
酒類業組合法は、酒税の保全と酒類業界について定めている法律ですが、酒税保全措置として、酒類の表示の基準と酒類販売管理者について規定されています。
酒類販売管理者について
酒類販売管理者は、酒類の販売業務が法令に従って行われるように酒類小売業者(事業主)に助言を従業員には指導する役割があります。
●酒類販売管理者の選任義務
酒類小売業者は、免許を受けた後遅滞なく、販売場ごとに、酒類の販売業務をしている者から酒類販売管理者を選ばなくてはなりません。
●酒類販売管理者の届出義務
酒類小売業者は、酒類販売管理者を選んだとき、または、解任したときは、2週間以内に、所轄の税務署長に届けれなければなりません。
●酒類販売管理者に研修を受講させるよう努める義務
酒類小売業者は、酒類販売管理者を選んだ日から3か月以内に、酒類販売管理者に財務大臣が指定する団体で実施する酒類販売管理者研修を受講させるよう努める義務があります。
表示基準の遵守
未成年者の飲酒防止に関する表示基準を遵守する必要があります。以下の表示物に表示例の記載等をします。表示事項は明瞭に表示し、表示に使用する文字は、10ポイントの活字
(インターネット等によるときは酒類の価格表示に使用している文字)以上の大きさの統一のとれた日本文字とすることとなっています。
表示物 | 表示事項 |
---|---|
広告やカタログ等(インターネット等によるものを含む) | 「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」 または 「未成年者に対しては酒類を販売しない」 |
申込書等の書類(インターネット等により申込みを受けるときは申込画面) | 申込者の年齢記載欄をもうけたうえで、その近接する場所に以下の表示 「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」 または 「未成年者に対しては酒類を販売しない」 |
納品書等の書類(インターネット等による通知を含む) | 「未成年者の飲酒は法律で禁止されている」 |
社会的要請への適切な対応
その他、様々な社会的要請への適切な対応が求められます。
●未成年者の飲酒防止
未成年者の飲酒の防止については、未成年者飲酒禁止法において、酒類販売者や飲食店などが、未成年者がお酒を飲むことを知ってお酒を販売・提供することを禁じており、年齢確認などが必要である旨を定めています。
そのため、お酒の販売にあたっては、成人であることを確認したうえで販売しなければなりません。
未成年者がお酒を飲むことを知っていながら販売した場合には、処罰の対象となり、免許の取消要件ともなりますので気をつけてください。
●公正な取引の確保
公正な取引ルールのもとで酒類業者間の競争が行われるよう国税庁では「酒類に関する公正な取引のための指針」を定めています。
指針では「全ての酒類業者が自主的に尊重すべき酒類に関する公正な取引のあり方」として、以下の4つを提示しています。
①合理的な価格の設定
②取引先等の公正な取扱い
③公正な取引条件の設定
④透明かつ合理的なリベート類
また、同時に取引状況等実態調査の実施及び公正取引委員会との連携として、効果的な取引状況等実態調査の実施や独占禁止法違反等への対応なども提示しています。
以上の未成年者の飲食防止、公正な取引の確保の他、お酒の容器包装廃棄物の減少と資源の有効化のため酒類容器のリサイクルの推進も求められています。
免許取得後の手続き
免許を取得した後でも、以下のようなケースがあったときは手続きが必要になります。
●通信販売酒類小売業者が、販売場を移転しようとするときは、酒類販売場移転許可申請書を提出します。
この申請は移転する前にする必要があるので注意してください。
移転前の所轄税務署を経由して移転後の所轄税務署に申請することになります。